ーありの~ままの~姿~見せ~るー
そのフレーズが流れた瞬間、薄暗い映画館の中ですすり泣く声がそこら中から聞こえてきた。
いや、正確に言うとすすり泣く声は映画が始まってからずっと周りの席から聞こえてきていて、前の席の若い女性はハンカチで目を覆うほどの号泣状態だった。
一緒に来ていた連れの女性も、くぐもるような声を漏らしながら泣いていた。
このように、アナ雪こと「アナと雪の女王」は日本中の女性の涙腺を破壊し、映画館が水浸しになってしまうのではないかと思うほどの涙を流させた。
ディズニー映画には様々な名作があるが、「ありの~ままの~」から始まる大ヒットした挿入歌のインパクトもあり、アナ雪は最近で最も印象に残るディズニー作品だと言っていいのではないだろうか。
「かぶまくらさんは泣かないんですか?」
「ああ...僕はあんまり泣かないからね」
連れの女性にそう聞かれたのだが、実際のところ、おいらはアナ雪を見ながら恐怖に近い感情を覚え全身が震えていた。
ーやはりこの国では、誰もありのままの姿など見せてはいけないんだー
アナ雪のストーリーは、すでに日本国民のほとんどがあの映画を見ていると思うのでここで詳しくは説明しないが、ざっと要約すると下記のような感じとなる。
強すぎる魔力を持った雪の国の女王エルサが、自身の魔力を「ありのまま」露見すると多くの人々に害を与えるため王国では生活出来ないと判断し、「ありのままの自分」で生きるために北のノースマウンテンに宮殿を作る。
その後、エルサは妹のアナとの紆余曲折を乗り越え、真実の愛こそが自身の魔力をコントロールし、「ありのまま」の自分で生きる鍵であることを知り王国に戻る。
※鬼畜のハンス王子のくだりは省略とする。
実は映画の途中で少し寝てしまい、連れの女性に激怒されたのだが、おおよそのストーリーはこんな感じだろう。
アナ雪の大きなテーマは、「ありのままの自分」を受け入れて生きていくむずかしさと、それを乗り越えるための勇気と強い意志だ。
アナの姉のエルサが悩み苦しみながらも、「ありのままの自分」を受け入れて生きていこうとする姿に皆心打たれたのだ。
「あ~感動した、私も本当の自分を大切にしないといけないな」
映画が終わって食事をしていた際、連れの女性がそう言うのを聞いて、おいらは微かな違和感を覚えた。
「やっぱり、ありのままの自分で生きていくってすごく大事なことですよね、かぶまくらさんもそう思いません?」
そう聞かれたので...。
「いや、僕は全くそうは思わない。なぜなら、この日本という国でそんな生き方をしていたら異分子として社会から排除されてしまい、最終的にはどこにも居場所がなくなってしまうからだ」
本当はそう答えたかったのだが、そう答えた瞬間に相手が激怒して高速で帰宅してしまう可能性があったので実際は言えなかった。
「ああ、そうだね、ありのままの自分で生きることは本当に大切だ」
そのため、そんな定型文のような答え方をしたのだが、実際に思っていることは全く違っていた。
つまり、おいらは「ありのままの自分」で彼女の問いに対して答えることが出来なかったのだ。
このような感じで、通常人間というのは日常生活において、「相手が望む自分」であるために「ありのままの自分」を放棄する場面がたびたびある。
特に、ここ日本ではその傾向が非常に顕著で、「空気を読む」という言葉があるように、異常に周りに対しての同調を強制されることが多い。
例えば、会社の行事などで飲み会があったりすると、本当は行きたくない人でもその他大勢の社員が参加するので、「ありのままの自分」を殺して嫌々参加しなければならないケースが多い。
なぜそうせざるを得ないかというと、「ありのままの自分」を貫き通して飲み会に参加しない場合、上司への印象が悪くなったり、同僚との関係がギクシャクする可能性があるからだ。
つまり、「飲み会に行きたくない」という「ありのままの自分」を貫き通すと、自分にとって不利益なことが発生するリスクがあるのだ。
他にも、仕事をしていると無数にこのようなケースに遭遇し、そのたびにいちいち「ありのままの自分」を貫き通しているとひどく疲れてしまうし、そもそも一切自分自身にとってのメリットがないので、多くの人は妥協して「ありのままの自分」であることを諦めてしまうのだ。
この現象は、決して企業内だけで起こっているわけではない。
幼稚園から小学校、そして小学校に中学、高校、大学、それからコンビニやファミレス、市役所、そしてネット上でさえも、常に「ありのままの自分」でいると不利益を被るコミュニティーが形成されているのだ。
そして、この日本で生きていく限りは、好むと好まざるに関わらず、そういったコミュニティーに属さざるを得ない場合がほとんどだ。
そのため、ここ日本ではほとんどの人たちが「ありのままの自分」で生きるにはあまりにも過酷な環境下で生きていると言っていいだろう。
そして、これは何もそういった大きなコミュニティーに限ったことではなく、親子間や友人間など、非常に狭い範囲でも起こっている現象だ。
例えば、親が子供に対して「いい子でいなさい」と教育することも、友人から「お前はこう思うよな」と言われて同意を強調されることも、それからあまり好きでない恋人から「私のこと好きだよね」と聞かれることも、全て同じだと言っていい。
それらの要求や問いに対して、あなたが「ありのままの自分の考え」を少しでも曲げて応えているのであれば、それはもう「ありのままの自分」とは言えない。
ここ日本で生きていると、こういった出来事が連続して起こるので、生まれてからずっと「ありのままの自分」を貫き通すことが出来ている人というのは相当稀なのではないだろうか。
「そんなの、人間なんて誰だって生きていくうえで大なり小なり自分を殺さないといけない場面はあるんだからしょうがないでしょ!!」
そう思われた方!!
その通りだ。人間というのは、生きていると大なり小なり自分を殺さないといけない場面というのは確実にある。
そして、日本のコミュニティーではその傾向がさらに顕著だ。
だからこそ、アナ雪はあれだけ多くの人々の感情に訴えかけ、異例ともいえるほどの大ヒット作となったのだ。
その根底にあるのは、「ありのままの自分で生きたい」という人々の切実な願望だ。
人間というのは、心理学上、自己否定をすると強い心理的ストレスにさらされることが判明している。
そのため、本当は「ありのままの自分」を受け入れて「自己肯定」をしてあげないといけないのだが、日常的にはその逆の「自己否定」をし続けているということになる。
そして、本当はみんなその状態に苦痛や不満を感じている。
そのため、「ありのままの自分」で生きようともがき苦しむエリサを見て共感し、涙を流すのだ。
さて、ここで終わってしまうと、アナ雪で泣く人たちの心理を上から目線で分析しただけのクソ記事になってしまうので、「ありのままの自分」で生きるための方法を少し考えてみた。
まず、具体的な方法としては、シンプルに自己肯定を徹底するという方法が考えられる。
前述したが、「ありのままの自分」でいないという状態は、自己否定をしている状態に該当する。
そのため、それとは真逆の自己肯定をすることで、自分自身を「ありのままの自分」に引き戻してやる必要がある。
そのためにどうするかというと、まず他人に期待するという方法は除外しないといけない。
他人によって高い評価を与えられることで自信を取り戻し、自己肯定感を上昇させるという方法もあるが、それだと評価してくれる他人に対して「その人の期待通りの自分」を演じてしまう必要性が出てくるため、その時点で「ありのままの自分」ではなくなってしまう可能性がある。
なので、ここでは除外するとしよう。
では、どうするのかというと、他人にさせるのではなく、自分で自分を肯定してやればいいのだ。
次のようなワードを声に出して言ってみるといい。
・「私はすごい」
・「私は完全に正しい」
・「私は最高だ」
こんな感じで、自分で自分を強く肯定してやるのだ。
重要なのは、繰り返し言い続けることだ。別に本当にそうだと思っていなくてもいい。繰り返し言っていると、そのうち段々とそれが本当のような気分になってくるからね。
そして、言い続けていると「本当にそうかも」と思う瞬間がやってくると思うので、その時にさらに何度も言い続けて、それらの自己肯定ワードを意識に強くねじ込んでやればいい。
これは自己肯定の最もベーシックな方法なのだが、結構本当にこれが出来る人というのは少ない。
その理由は、「本当にそうかも」と思った段階で、「まあ、そんなはずはないよね」と中途半端に途中でやめてしまう人が多いからだ。
なので、「本当にそうかも」と少しでも思ったなら、もう徹底して自己肯定ワードを言い続けることが重要だと、個人的にはそう思っている。
こういった方法をバカにする人もいるが、この方法は一流のアスリートも取り入れている科学的に効果が立証されている方法だ。
自己肯定感が高まると、リラックスした状態を維持出来る時間が長くなり、その人本来が持っている力が発揮しやすくなるのだ。
なぜかというと、自己肯定しているので心がリラックスし、副交感神経が優位な状態が続くからだ。
人間の神経構造は、活発に活動することが必要なときは交換神経が優位となり、リラックスする必要があるときは副交感神経が優位となるように出来ている。
そして、完全にリラックスしている状態で自己肯定を続ければ、さらに自己肯定感が上昇していくので、外部から自己を否定されたり、表面上は他人に合わせていたりしても、内面で絶対的な自己肯定が完成しているので、「ありのままの自分」が揺るがないのだ。
科学的な根拠を説明するとこんな感じだろうか?
「そんなわけね~だろ」
と思う方もいるかもしれないが、おいら自身はこの方法は金も一切かからないし、まあまあ効果はあると思っている。
なので、興味のある方は一度試してみるのもいいかもしれない。
もしかしたら、多少は「ありのままの自分」で生きることが出来るかもしれないからね。
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