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【不労所得】バカだと思っていた先輩が凄腕の不動産投資家だった!!

その日、珍しく早くに仕事を切り上げたおいらは、駅の改札でとある人物を待っていた。

その人物とは、ずっと以前にいた部署でお世話になっていた5つ年上の先輩のCさんだ。

Cさんと一緒に働いていたのはもう10年ほど前で、その頃のおいらは新人に毛が生えみたいなガキで、よく失敗をしては上司に怒られていた。

「かぶまくら、飲みにいくぞ」

Cさんは底抜けに明るいリーダー的な性格で、失敗して上司に怒られたおいらを気遣ってか、たまにそう言っては飲みに連れて行ってくれた。

Cさんは、仕事は結構出来るのだが、基本的にあまり器用なタイプではなく、どちらかと言えば愛されるべきバカみたいな感じの人間だった。

「さあ、やりますか!!」

そう言って、接待では後輩に率先して宴会芸をやって下さったりしていたものだ。

Cさんお得意のパンティー仮面の宴会芸(頭にパンツを被って登場するだけ)は、お得意先のお客様にも大好評だった。

「最近はこういうバカがいなくて困るよ!!」

特に、年配のお客様には大好評で、おかげさまでCさんの営業成績はその頃おいらが所属していた部署でも群を抜いていた。

バカで明るくて、楽しくて、そして仕事も出来る人気者。そんなCさんは、おいらにとって憧れの先輩だった。

いつかはおいらも、Cさんのようになりたい。

本当にそう思っていた。

そんな憧れの先輩から、先日突然内線がかかってきた。

「かぶまくら、こんどちょっと用事があってそっちに行くから、久しぶりに飲みにいかないか」

おいらの返事は、もちろんYESだった。

久しぶりに昔憧れだった先輩に会える。そう考えると、何だか昔好きだった女の子と会う前のように緊張してきた。

夕暮れ時の改札口は人でごった返していて、ネクタイを締めたサラリーマンや、仕事終わりのOL、それから大学生など、様々な人々が細い改札の出口からベルトコンベヤーに乗ってきた部品のように外の世界へと吐き出されていた。

あまりこんなに早い時間帯に駅に来ることがなかったので、その光景を見るのは久しぶりのような気がした。

しばらく放心したように、改札から出てくる人々をみつめていると、携帯が鳴った。

Cさんからだった。

「おう、かぶまくら、着いたぞ」

不意をつかれたような感じだったので、急に緊張してきた。何といっても会うのは10年ぶりだ。あれからCさんは異動してしまい、別の部署になってしまったので、その後会う機会はなかったのだ。

「どこですか」

と、誰かがおいらの肩に手を置いた。

この分厚い手の感触、間違いない、Cさんだ。

昔、おいらが上司に怒られて凹んでいると、よくCさんは肩をポンッと叩いておいらを励ましてくれた。

「前向けよ、失敗は成功のもとだ」

あの時と同じ分厚くて暖かい手の感触...。

急に、何だか胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。

ついに、Cさんと再会出来る。

後ろをゆっくりと振り向く。久しぶりに会うCさんは、一体どんな感じになっているのだろうか。

「よう、かぶまくら、久しぶりだな」

だれじゃああああああああああああああああ!!!!

久しぶりに会ったCさんは、もはや10年前の原型をとどめていなかった。

Cさんの頭のハゲ散らかし具合は、この10年のハードなサラリーマン生活がどのようなものだったかを物語っていた。

Cさんが異動した部署は、社内でも屈指のハードな部署だとは聞いていたが、まさかここまでとは...。

おまけに、昔と違ってCさんはほっそりとしてしまっていた。

10年前は髪はフサフサで、体中が鎧のような筋肉に覆われ、まさに活力の塊みたいだった漢がここまで変化するのか。

「お前、何人の頭みて驚いてるんだよ」

おいらが呆然としていると、笑いながらCさんがそう言った。その声の調子が10年前と全く変わっていなかったので、少しホッとした。

「いえ、別に見てないですよ」

「馬鹿野郎、こっちも色々あるんだよ。まあいいや、焼き鳥屋でも行くか」

そうだった、Cさんは昔から焼き鳥が大好きだったのだ。

そう言えば昔、Cさんと一緒によく焼き鳥屋で、安い焼酎をたらふく飲んで酔っ払っていたことを思い出した。

「それでさ...」

焼き鳥屋に着き、あの頃と同じように芋焼酎で乾杯してから、Cさんは最近の仕事の話をし始めた。

やはり、あれから異動した部署は相当ハードだったようで、鋼のメンタルを持っていたCさんですら相当疲弊していることがよく分かった。

「かぶまくらと一緒に働いていたころが、まだ若かったし、一番楽しかったのかもしれないな」

「Cさん...」

そうほろ苦く笑ってから、Cさんは昔からそうだったように、大好物のネギマをゆっくりと頬張った。

「うめえな」

ニッコリと笑ったその顔に、深い疲れの色が見えた。

あれから一体Cさんは、どれほどのご苦労をされてきたのだろうか。

口に含んだ安い芋焼酎の味はあの頃と変わらなかったが、一緒に酒を飲んでいたCさんの人生は、あの頃とはだいぶ景色が変わってしまったみたいだった。

おいらたち二人は、しばらくの間黙って焼き鳥を頬張り、そして芋焼酎のロックを飲んだ。

...。

アルコールが徐々に回ってくるにつれて、おいらとCさんの心もだんだんとほぐれてきて、昔話に花が咲き始めた。

「お前知ってるか、あの女、実はあの課長と不倫してたんだぜ」

「マジですか!?」

そして、話題は徐々に昔二人が焼き鳥屋で交わしていたような、下世話な話題へと移っていった。

よかった、Cさんは何も変わっていなかった。ずいぶんとご苦労はされたみたいだが、本質的にはあの頃とは何も変わりなく、おいらの憧れの先輩だったCさんのままだ。

そして、酔いが進んできたところで、おいらは最近ハマっている株式投資の話題をCさんに振ってみた。

「なんだ、お前株なんかやってるのか」

「はい、結構面白いですよ」

「俺も昔やってたけど、もうやめちまったな」

Cさんが株をやっていたとは意外だった。

「株、やってたんですか?」

「ああ、株のスイングトレードなんかを昔やってたんだよ。リーマンショックでだいぶ下がったところでやめちまったけどな」

Cさんは、仕事の付き合いで夜の店に行ったり、会社の同僚と飲みに行ったりと付き合いはよかったが、基本的には根が真面目でギャンブルなんかもやらなかったので少し驚いてしまった。

「かぶまくら、お前、株みたいな博打をやるよりも、不動産を買っておいた方がいいぞ」

「不動産、ですか?」

「そうだ。不動産は持っているだけで金が入ってくるからな」

まさか、こんなところに不動産投資家がいたとは。おいらは芋焼酎をごくりと飲み干してからCさんに質問した。

「でも、不動産ってメチャクチャ高いから借金しないとダメでしょ」

「そんなもん、部屋を借りてくれる人間に返済させればいいんだよ」

そう言ってこちらを見て笑ったCさんの表情からは、さっきまで色濃く残っていた疲れの色は消えていた。

その表情は自信に満ち溢れ、こちらを見る目には昔のCさんの目に宿っていた力強い光が宿っていた。

Cさんの不動産投資のスタートは、リーマンショック後に結婚を期に買った分譲マンションからスタートした。

その頃、新婚だったCさんは、お客さんに進められて都内から少し外れた場所にある分譲マンションを買ったのだ。

頭金は貯金で払い、あとはローンを組んで購入したらしいが、元々はそこにずっと住む予定だったらしい。

しかし、転勤で遠方に行かざるを得なくなったため、その後そのマンションを他人に貸すか売却するかを選択しなければならなくなった。

そして、Cさんはマンションを売却することにした。なぜなら、買った時よりも値段が1000万円ほど値上がりしたからだ。

「そんなに上がるもんなんですか!?」

「ああ、4000万くらいで購入したんだけど、5000万円で売れたよ」

2年ほど住んだにも関わらず、マンションは買ったときよりも高値で売れたそうだ。

そこから、Cさんはマンション投資に開眼したらしい。

その後も、実家の近くの地方都市に分譲マンションを1室買い、そのマンションは人に貸しているという。

そして、他にももう1つ別の地方都市に分譲マンションを買っていて、そこも人に貸しているので家賃収入が二つのマンションから入ってくるそうだ。

「頭金は最初にマンションを売って作ったお金で払って、あとは二つとも住人が支払ってくれる家賃の中から返済してるんだ」

二つのマンションから入ってくるローンを除いた手取り収入は、月々15万円ほどらしい。さらにCさんは、もう1室分譲マンションを買うことを検討しているという。

「こうやってマンションを増やしていけば、もう無限コンボ状態で収入が増えていくから、お前も絶対やったほうがいいぞ。銀行は今、サラリーマンにだったらバンバン金を貸してくれるからな」

「だけど、住人がいなくなる空室リスクなんかもあるんじゃないんですか?」

さすがに投入している金のレベルが違いすぎるので、「REITだったら分散投資出来ますよ」、などと小生意気なことは言えなかった。

「それはあるな。だから、俺の場合は、自分で実際に何度も物件を見てみて、自分が住みたいと思うマンションだけを買うようにしてるんだ。実際、自分が住むことも想定しているしね」

おいらはマンション投資のことなど何も知らないが、それは何となくなるほどなと思った。確かに、自分が住みたいと思うような部屋ならば、他人も住みたいと思う可能性は高いのかもしれない。

「それにな、地方都市でも立地のいいマンションっていうのは、古くなっても欲しがったり、住みたがったりする人が意外と多いんだよ」

Cさんはそっとささやくようにしてそう言った。

Cさんが言うには、都心のマンションなんかは今では高すぎて手が出せないが、地方都市の中古マンションでも探せばいい物件があるとのことだった。

まさか、こんなに身近に和製トランプ大統領がいただなんて。

おいらは、全くそんなイメージがなかったので、Cさんに対する印象が変わってしまった。

この漢は、ダテにサラリーマン生活で疲弊し、ハゲ散らかしていたわけではない。まるで土の中で春を待つ竹の子のように、ずっと力を蓄え続けていたのだ。

一見バカを装っていたCさんは、実は非常にクレバーな不動産投資家だったのだ。

さて、こんな感じで久しぶりに再会した先輩が不動産投資家だったことに驚いたのだが、だからと言って不動産投資を始めようとは思わなかった。

おいらは、不動産投資をするのであれば、REITや不動産関連の株なんかを買った方が手軽なのでそっちの方がいいと思っている。

ただ、Cさんの話を聞いて意外だったのが、分譲マンションというのは立地さえよければ古くても結構値上がりすることがあるということだ。

個別のマンション価格なんか調べたことがないので、全く分からないのだが、東京のタワーマンションなんかは、十年ほど前に買ったものが今ではその頃よりもずっと値上がりしていることもあるらしい。

最近は一戸建てに住むよりも、セキュリティーの行き届いた分譲マンションの方が金持ちには人気があるそうだ。

おいらは不勉強なので、マンション投資などと聞くと何となく怪しい印象を持ってしまうし、実際に業者が勧めてくる投資用マンションは結構微妙なものが多いと思う。

ただ、もしかしたら、「自分が住む」という基準で必死で探した物件であれば、売却するにしろ賃貸するにしろ、他人も「住みたい」と思う可能性が高いので、いい投資になる可能性もあるのかなと思った。

不動産と聞くと、何となく景気がダイレクトに作用し、結構不安定な投資対象になるイメージだが、よくよく考えると「衣食住」と言われるように、人間の生活に必要不可欠なものなので、実際は安定的な投資対象なのかもしれない。

おいらは株を買うが、もしも1億円くらい手元にあれば、3000万円くらいのマンションを買ってみてもいいかな、と思った。

もちろん、手元に1億円はないので、それは単なる願望でしかないが...。

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