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配当金という果実

みなさんはビワの実を直接木からもぎとって食べたことはあるだろうか?おいらはある。小学生や中学生だったころ、貧しい家庭で育ったおいらは、夏になると近所の庭に生えているビワの木から無断で実をもぎ取りよくほうばっていた。その当時はコーラを買うお金も無かったので、ビワはかっこうの水分補給の手段となっていた。ビワの実をしゃぶると甘酸っぱい果汁があふれ出してきて、口の中に夏の香りが広がった。

ビワの木は夏になると毎年実をたくさんならして近所の子供たちを喜ばせた。毎年毎年、尽きることなく。久しぶりに実家に帰ったとき、まだその木はあった。そして昔と同じように実を枝いっぱにならせていた。

「あまずっぺえだろう」

僕が思わず懐かしくなって実を手に取ると、その家の老婆が話しかけてきた。ああ、思い出した。昔よく柴犬を散歩させていたおばちゃんだった。年を取ったもんだ。あの犬は死んでしまったのだろうか。昔その犬に噛まれた腹いせにビワの実を100個ほど強奪したことを思い出した。

「最近のこんどもたちは、あんま食べねえんよ」

そうか、最近の子供は金持ちだもんな。ビワなんか食べないだろう。そう思いながら僕はビワの実をほうばった。あの頃と変わらず甘酸っぱい味で、夏の香りが口いっぱいに広がった。一体いつごろからこの木は生えていて何回実をならせたんだろう。そして何度子供たちを喜ばせたんだろう。そんなことを考えていると、思わずある考えに至った。

「はいとう、配当金じゃあ、これこそ配当金じゃあ!!」

「な、なんじゃあおっきな声だしてよう」

おばあちゃん!!これが、これこそが配当金なんじゃあああああ!!」

配当金を知らなかった頃

お恥ずかしながら、おいらは本格的に株をはじめるまで配当金というものを知らなかった。いや、聞いたことはあったのだがそれがどういう制度でどういう風にして投資家に支払われるのかまったく知らなかったのだ。

だから株というものは価格の上がり下がりから利益を得る怖いものだと思っていた。株で破産した人の話も聞いたことがあったので、株=博打という恐ろしいイメージがあった。

だから投資信託を始めて買ったときも値段が上がれば売らなければいけないと思っていた。おいらが働き始めたころの本屋さんに置いているある株の本はほとんどがデイトレードに関するものだった。

「チャートを読めばお金持ちになれる」「その日に売ってその日に設ける」

そんな感じのタイトルのものばかりだった。よく立ち読みでパラパラ本をめくってみては、よしこれでおいらも大金持ちだい、と息巻ていたものである。しかし実際はよくわからないので友人に勧められるまま投資信託を買ったのだ。そしてすぐに売ったりを繰り返していた。

・株は値上がりしてらすぐに売らなければいけない。

それが当時のおいらの考えだった。おいらの小さな小さな脳みそは多少の値下がりにもすぐに恐怖を覚えるように出来ていて、今考えると意味不明に投資信託を解約したりしていた。そしてすぐにまた別の投資信託に乗り換えるのだ。おいらの心は完全に資産価格の変動に支配されていた。

今思うと本当に間違ったことをしていた。

配当金こそ果実

それから10年以上が過ぎ、ようやく株の勉強を真剣にやりはじめたおいらはがくぜんとした。ある事実を知ってしまったからだ。それは、株を買うと企業から配当金がもらえるという極めてシンプルな事実だった。

そして、企業は毎年設けたお金の30%から多ければ100%までを株主に配当金として支払っているのだ。

「ほ、ほんならおいらたちは、株主に配当金を支払うために毎日働いているんか」

企業が設けたお金の何パーセントを株主に配当金として支払っているのかを示す指標に配当性向というもがある。この配当性向がなんと100パーセントを超えている企業すら存在するのだ。つまり、借金をしてでも配当金を支払っていることになる。

それも、毎年毎年ビワの木が実をならすように。

実際には連続増配企業というものも存在する。毎年毎年支払う配当金の額をひたすら増やし続けている会社だ。日本では花王の25年が最高らしいが、アメリカには30年以上も配当金を増額し続けている企業だってざらにある。

なるほど、だから世界の富豪は皆株を買いまくっているのか。

おいらはその時ようやく株式の本当の価値というものを理解した気がした。企業が儲けたお金の分け前をもらえるのが株主であり、その会社が繁栄すればするほど株主も儲かりまくるのも当然の仕組みだとやっと理解できたのである。

よし、株を買おう。

ようやく決意したおいらは十年ぶりくらいに証券口座を復活させ、まずは日本株を買ってみた。値が上がりそうで配当金も3パーセント程度もらえそうな株だった。

初めて配当金をもらったとき

株を買ってから数か月が経過したころ、家に一通の封書が届いた。見たこともない企業からだった。

「なんだこれ?」

いや待てよ、見たことがある。これはおいらが株を買っている会社からの封書だ。封書を開けると小さな文字で○○○○円配当金をお支払いたしましたと書いてある。そうだ、忘れていた。株を買ったら配当金がもらえるんだ!!

おいらは急いでネット証券の口座を確認してみた。すると確かにお金が振り込まれていた。不思議な感覚だった。何もしていなのにお金をもらえるという不思議体験に、おいらはぼうぜんとしていた。

すごい、なにもしていないのにお金をもらってしまった。

実際には株の値下がりというリスクをとった結果配当金をもらっているのだが、なんだか「タダ飯」にありついたようなくすぐったい気分だった。それからおいらの価値観は一変した。投資=博打のイメージだったのが、投資=確実に儲けていくものに変わったのだ。

そして現金=安心だったのが、投資=安心に変わった。それからおいらは株式投資にのめりこんでいったのだ。

配当金は最も分かりやすい投資の目に見える成果なので、ぜひ皆さんも一度受け取ってみてください。それが少額であれ、多少はお金に対する価値観が変わるはずです。

百聞は一見にしかずなので、興味があるのであればネット証券で今すぐ口座を開いてまずは少額から高配当の株やETFなんかを買ってみてはいかがでしょうか。ポイントは最初は少額で買ってみることだと思います。そしてまずは配当金を受け取ってみること。

その不思議体験が、あなたを新しい世界に連れて行ってくれます。

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