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【小説】配当金で過ごす投資家の夏・放課後の生贄ーVOL14ー

オレンジ色のノスタルジック

キーン・コーン・カーン・コーン

放課後を知らせる鐘の音が、小学校の校舎のコンクリートに反射しながら、メトロノームサウンドのように響き渡っている。

校庭から、はしゃぎながら下校する生徒たちの声が聞こえてくる。

夕陽が窓ガラスを通過して、校舎の中にオレンジ色のノスタルジックを作り出している。

僕も本当はもう家に帰るはずだったのに、何故か図書室で一人本を読んでいる。

その日はとても暑い夏の1日だったはずなのに、図書室の中はひんやりしていて、窓ガラスを通過してきたオレンジ色の光も木製の本棚に吸収されてしまい、収納された本たちから滲み出る暗い影へと姿を変えてしまっている。

ーこっちに来てー

さっきからずっと、頭の中から誰かが話しかけてくる。

ーこっちに来てー

その声には聞き覚えがあるが、それが誰の声かは思い出せないでいる。

授業が終わったあと、友達の洋平が一緒に帰ろうと誘ってくれたがそれを断り、僕はなぜか図書室にいる。

放課後の校舎はガランとしていて、ニスを塗り込んだ廊下からはひんやりとした冷気を感じる。

頭の中から聞こえてくる声に誘導されて図書室の前まで来ると、スライド式のドアが少し開いている。

吸い込まれるようにして、僕は図書室の中に入り、そっとドアを閉める。

ーここに来てー

今度は、図書室の奥の方からさっきと同じ声が僕に呼びかけてくる。

ーこっち、こっちの本棚まで来てー

僕は夢遊病患者のように、フラフラとその声に従って歩いている。

美咲からの電話Part2

喉が、熱い。

夢から目覚めた僕は、自分の体が自分の指示に応じて自由に動かないことを、ぼんやりとした意識の中で認識している。

窓が開いている。風が部屋に流れ込んでいる。僕はベッドに横たわっている。

部屋の中でカチャカチャと音が聞こえる。誰かが細い毛糸を使って何かを編んでいる。

カチャ、カチャと音が聞こえる。誰かが僕の頭の奥に眠っている記憶を再生しようとしている。カチャ、と音が聞こえるたびに、脳の繊維が一つ深く刻み込まれる。誰かが、細い毛糸を使って僕の脳や体を再生しようとしている。

ー毛糸で体をグルグル巻きにして、薬品で消毒をして、あとは乾燥させるー

毛糸がくるくると空間に文字を描き、そんなメッセージを僕に伝える。

それは、何かを作る際の重要なプロセスだ。それは、ずっと昔にどこかで知ったはずの、重要なプロセスだ。

そうだ、僕は今実家に帰ってきていて、昨日あの水路に行ったんだった。

そして、あの水路であの時起こったことを少し思い出したんだ。

そして、次は何をすればいい?どこに行けばいい?そんなことを考えながらベッドに横たわっていたら、いつの間にか寝ていたんだ。

次は何をすればいい?どこに行けばいい?

自分にそう問いかけてみる。

「毛糸で体をグルグル巻きにして、薬品で消毒をして、あとは乾燥させる」

自分の口が勝手に動き、そう呟いているのが聞こえる。

頭の中に、ある情景が浮かび上がってくる。

「...」

そうか、次は...あそこに行かないといけない。あそこに行って確かめないといけない。

「あの本の中身」を。

ふと気が付くと、僕の意識は完全に覚醒していていた。

「...誰だ?」

部屋の壁時計を見ると時刻は深夜2時なのに、スマートフォンの着信音が鳴り響いている。

ベッドから降りてスマートフォンを手に取る。

美咲からだった。

「もしもし、どうしたの?こんな遅くに」

美咲は答えない。

「聞こえてる?」

美咲はまだ答えない。

「もしもし?」

何となく不安な気持ちになってくる。

「あのね」

美咲がようやく声を出す。

「どうしたの?」

また、美咲は喋らない。

「...」

僕も沈黙する。

「私ね...したの」

良く聞こえない。

「ちょっと聞こえなかった、どうしたって?」

すでに電話は切れている。

電話をかけなおしてみるが、「電波の届かない範囲にいるため、お繋ぎできません」というアナウンスが流れる。

一体なんだったんだ?

美咲の声は恐怖か不安で震えているような、そんな不安定な感じがしていた。

ベッドに寝転がったが、何となく心配で眠れない。

ー毛糸で体をグルグル巻きにして、薬品で消毒をして、あとは乾燥させるー

耳もとで、誰かがそう囁いた。

放課後の生贄

図書室の奥から聞こえてくる声の指示に従って一番奥にある本棚の前まで来ると、1冊の本がまるで僕に差し出されるかのように、スーッと棚から出てくる。

古い本特有の、湿った紙の匂いがする。

その本からは、あの水路の奥で見たダークマターのような影が滲み出ている。

この本は、窓から図書室に差し込んだオレンジ色のノスタルジックをすべて吸収し、真っ黒な影として吐き出している。

ーさあ、その本を開いてー

今度は本棚の奥から聞こえてきた声に従って、その本を手に取る。

本の表面は布でコーティングされていて、手触りはいいのだが、中で紙がカサカサと動いているような感じがする。

僕は、ゆっくりとその本を開く。

ストーリーが始まる。

残酷な、生贄のストーリーが。

→to be contenued

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