ー信じるものすべてを...夏草揺れる線路をー
もう何度この歌を聞いただろうか。
ずいぶんと乗り古して、もう古い友人のようになってしまった車にセットされたMDプレイヤーから、Charaのかすれた歌声が流れている。
YEN TOWN BANDのSwallowtaill Butterfly。
今ハンドルを握っているこの車よりもずっと古い歌だ。
だけど聞き飽きない。
美しくて、どこか退廃的な歌詞に、孤独を感じさせる独特のメロディー。
それにボーカルのCharaのかすんだ歌声が混じって、目を閉じて聞いていると、もうずっと忘れ去っていたいつかの情景が蘇ってくる。
その情景の中には、まだ若かった頃の僕がいて、ずっと前にいなくなった猫や、離れていった人たちの姿が陽炎のように揺れている。
「ひさしぶりだね」
僕がそう挨拶すると、ずっと前に僕の前からいなくなったはずの猫がこっちを振り向く。
「ちょっと君に伝えたいことがあってね」
不思議な感覚だった。猫が人間の言葉を話しているのに、特に違和感のようなものは感じず、両耳の鼓膜が心地よく揺れていた。
僕はその猫ととても仲がよかったので、出来ればあの頃のように、もう一度その柔らかい体を抱き上げたいと思ったが、猫と僕の距離は少し離れていた。
「伝えたいこと?」
「よく聞いてくれ、これはとっても大切なことなんだ」
猫が僕をじっと見つめる。ライトグリーンと深いブルー。左右で違う色の目が、同時に僕を映し出している。
これは、きっと大切なことだ。
僕はゆっくりと息を吸う。
猫はとっても大切なことを僕に伝えようとしているに違いない。
「いいかい、よく聞くんだ」
「ああ」
「トルコリラが暴落する」
はっと目を覚ますと、つけっぱなしのPCの青白い画面に、FXの取引画面が映し出されており、トルコリラ/ドルのチャートがやや右肩下がりでジグザグに動いている。
僕は猫のお告げに従い、ロングのポジションをロスカットをした。
次の日、トルコリラが1日で20%も暴落した。
よかった、ありがとう猫。
僕はゆっくりと胸をなで下ろした。
...。
こんな奇跡はありえません。
🐈
さてと、最近トルコリラの暴落が市場に衝撃を与え続けている。
通常、為替が1日で10%以上動くことなんて考えられないが、もはやトルコの通貨であるリラは異常事態とも言える状況に見舞われている。
なんと、対ドルで1日の間に20%も暴落してしまったのだ。
これはドル/円に例えると、現在のレートである110円程度から、いきなり132円までドル高が進むのと同じだ。
そう考えると、いかにあり得ない事態であるかということが分かるだろう。
トルコリラは高金利通貨なのでFXをやっている投資家の間では人気だが、今回のトルコリラショックで相当な深手を負ってしまった投資家の方もいるようだ。
FXで爆損こいたことのあるおいらとしては、とても他人事とは思えない。
2009年頃に始まったギリシャ危機というものを、皆さんはご記憶されているだろうか?
その頃、EU加盟国であるギリシャが慢性的に財政赤字を垂れ流し続けており、もしかしたらデフォルトしてしまうのではという噂が流れてた。
そして、実際にギリシャはもうギリギリの状態で、EUの救済無しではとてもじゃないが国家財政を維持できないというレベルまできていたのだ。
ギリシャという国は、産業といえば観光業やオリーブの輸出などの農業がメインで、決してドイツのように経済的に発展している国ではない。
おまけに国土も小さい小国なので、経済規模はEUの中でもごく小規模な部類に入る国だ。
しかし、それにもかかわらず年金等の社会保障制度が手厚く、国家単位で金をつかいまくるため慢性的に財政赤字だった。要するに、支出が収入を上回っている状態だったのだ。
だが、ギリシャには必殺技があった。それが、他の国からの借金だ。
財布が空になりそうになると、バンバン国債を発行して他の国から借金をしまくり、何とか財政を回していたのだ。
しかし、いよいよそれが限界点に達していた。
EU内で金をせびりまくるギリシャを、もう助けなくていいという声が強まっていたのだ。
その結果、世界中が「ギリシャ財政破綻するんじゃね?」と危ぶみはじめた。
ギリシャがデフォルトしそうになると、当然EU共通の通貨であるユーロが暴落しまくり、対円やドルでものすごい事になっていた。
そのころ、FXをやっていたおいらは、とにかくユーロを売りまくっていた。
※一応補足しておくと、「売る」とはユーロが下落する方に賭けることだ。株の信用売りと同じポジションの取り方である。
そして、ある程度儲かっていた。おそらく、あの頃ユーロを売っていた人であれば、よほどタイミングを間違えなければ誰でも儲かっていただろう。
正直、調子をぶっこいていた。
そして、あれは忘れもしない...。
正確に覚えてはいないが、どこかの時点で突然ユーロが反発したのだ。
おいらのPCにぶちこんであるフォレックステスター(過去のチャートでバックテストが出来るソフト)を見れば、それが正確にどの地点なのか分かるだろうが、おしっこをちびりそうなのでやめておく。
そのころ、おいらはレバレッジを25倍に設定し、なんと10枚単位の取引を行っていたのだ。1枚が大体100万円くらいで、それの10倍なので1000万円単位の取引だ。
ちなみに、今はどうか知らないが、その当時はレバレッジ25倍が国内FX会社では設定出来るレバレッジのMAXだったと記憶している。※もっと上もあったかもしれないが。
為替が1円動くと、1枚だと1万円、10枚だと10万円値が動く。
おいらは売りで味をしめていたので、
「今度もどうせまた下げるだろう」
そう思ってひたすら売っていた。そして、ひたすらロスカットを繰り返していた。
その先は...もう分かるよね?
そう、お約束通り大事な大事な資産を、そのときのおいらからすれば結構な額溶かしてしまったのだ。
...おお、書いているだけですでに3滴ほどちびっていたよBOY!!
まあ、為替というのは時として予測外の動きをするということだ。
なんで恥を忍んでこんなことを書くかというと、おいらと同じような犠牲者を出したくないからだ。
いや、おいらくらいならまだいい。
本気で全資産を吹っ飛ばしてしまう人や、莫大な借金を負う人がFX取引では後を絶たない。
FXには強制ロスカットというものが存在するが、あまりにも急激な値動きだとそれが機能しないことがある。
FXでは伝説のナイアガラチャートとして有名な、かのスイスフランショックの際にも、強制ロスカットが機能せず、マジで破産してしまった人もいると聞く。
「だったら1枚かそれよりも少ない枚数にしておけばいいじゃない!!」
そう思う方もいらっしゃるだろう。
しかし、段々と感覚がマヒしてくるんだよあれは...。
1枚じゃ満足できなくなってくるんだ。そして、気が付くと10枚単位で取引をしてしまう。それがエスカレートすれば100枚単位...そこまでいったことはないが。
今回のトルコリラショックを見て、売りで入れば儲かりそうだとか、さすがにこれだけ下げれば反発するだろうと思って、為替取引をやってみようという方もいるだろう。
しかし、おいらとしてはおすすめは出来ない。
もちろん、抜群の勘や読みを持つ天才も中にはいるだろうが、おいらのような素人ではほぼ勝てないと思った方がいいだろう。
為替取引は大型株の取引と同じで、短期勝負であれば絶対的に資金量の多いプロが圧倒的に有利な世界だ。
東京時間もロンドン時間もNY時間も、バカな素人から身ぐるみをはごうというプロ中のプロがチャート画面の向こう側に座っているのだ。
恐らく両者には資金量から言って、核兵器VS竹やりぐらいの戦力差があるはずだ。
勝てると思うかい?
🐈
まあ、ずいぶんと脅してしまったが、実際にはレバレッジを制限出来て資金量も豊富なのであれば、FXでも勝てる可能性はあるだろう。
だけどレバレッジというのは麻薬のようなもので、一度25倍を体感すると、3倍の取引では満足できなくなってしまうんだ。
確か投資銀行などのプロであっても、レバレッジは最大でも3倍くらいまでしかかけないと聞いたことがある。
ということは、素人である個人投資家がいかに危険な取引をしているのかがよく分かる。
さて、次は超高利回りの投資商品のご紹介といこうか。
なんと利回りが13~14%超!!
100万円投資しているだけで、年間13万円も入ってくる夢のような商品だ。
誰にも言っちゃいけないよ、あなただからそっと教えるんだ。特別だよ?
え、話の流れからもう答えは分かったって?
...。
その通り、答えはトルコリラ建ての債券だ。
以前から10%超の高利回りを謳っていたトルコリラ建ての債券やMMFなどの金融商品だが、トルコリラが暴落してしまったことで、利回りが凄まじいことになっている。
一見すると買いたくなってしまうだろう。
実際、おいらも買いたくなった。
だけど、やめておいたよ。なぜかというと、トルコがデフォルトしないという保障はどこにもないからだ。
トルコ問題については、他のブログやブルームバーグ、ロイター等で報道されまくっているからこのブログでくどくどしくは書かないが、とにかくヤバそうだというのはおいらにも分かる。
多分、いくらなんでもデフォルトはしないだろうが、トルコリラの長期チャートを見ていると、もしかしたらと思わせる何かがある。
もうね、ずーーーーーーーーーーーっと下げ続けているんだ。トルコリラって通貨はね。
確かトルコという国は、昔財政基盤がメチャクチャ弱かったのだが、リーマンショック前はかなりその点が改善されていて、投資先としては有望的な扱いをされていた記憶がある。※うろ覚えなので、間違っていたら申し訳ない。
しかし、エルドアン大統領が暴走し始めてから、なんだか本気でメチャクチャになってきた感がある。
これ以上アメリカと争ったらマジでやばいのではないだろうか。
もう、牧師さんは放流してあげた方がいいような気がするが...。
もしも万が一トルコがデフォルトしてしまえば、超高利回りのトルコリラ建て債もジ・エンドだ。
それに持っているだけで通貨価値が下がる可能性があるので、高速で資産が削られていく可能性がある。
だから、もしもトルコリラ建て債を買おうと思っている人がいるなら、配当利回り1%程度のアップルか配当利回り2%弱のS&P500に連動したETFをお勧めする。
配当利回りは少ないが、将来的にお金が増える確率はこちらの方が高いと思う。
おいらが保有している、配当利回り4%超のエクソンモービル君やIBMさんもダメだろうと言われるとその通りだ。
やばいんだよ...。
だけど、この二つは腐っても米国の超老舗企業で、経営しているのはビジネスの超エキスパートたちだ。
それにドル建ての資産だから、まだおいらは安心して持っている。
なぜなら、株価が下げてもドルは今後上昇する可能性が高いからだ。今の流れでいけば、確実にドルの金利は上昇していくだろうからね。
実際は個別株なので、トルコデフォルトのリスクよりかは、この両者の倒産リスクの方が高いのかもしれませんけどね。
まあ、甘い話=高利回りには、それなりに高いリスクがあるっていうことですね。
冒頭のお話のように、猫のお告げは中々期待できないので、もはやこれは自分で判断して身を守るしかありません。
爆損は怖いんだよ...本当に。
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