前回までのあらすじ※要約:友人に彼女が出来たことに嫉妬したおいらは、出会いを求めて街へと旅立った。
電車が目的の駅に着く。プシューッというコカ・コーラ、いや、ペプシコーラの栓が開くような音とともに、電車のドアがゆっくりと左右に開く。
すでに時刻は夕暮れ時で、濃厚な初夏の空気と街中に充満しているCO2が改札の手前まで充満している。どうやら街が目覚める一歩手前の時間帯に間に合ったらしい。
こんな緊張感はいつぶりだろうか。
友人の自慢話に触発されて、こんな時刻にいつもは来ない街まで来てしまった。嫉妬心とは恐ろしいものだ。いつものルーティンを破壊し、おいらをこんな街まで連れてきてしまった。
本当なら週末のこの時間帯はエクソンモービルに関するニュースをチェックし、一人微笑みながらビールでも飲んでいる時間帯だ。
友人が婚活パーティーで出会った30代前半のキャリアウーマンと付き合って一緒に温泉旅行に行っているという話を聞いて、いてもたってもいられなくなり、こんな場所まで来てしまった。
しかし考えてみれば当然のことだ。なぜならおいらは雄だからだ。雄たるもの、どれだけ金を稼ごうが生殖相手である雌を捉えなければDNAが途絶えてしまう。だから狩りにきたのだ。
大丈夫、とても甘い匂いのする香水を頭からたっぷりと振りかけてきたし、鼻毛もばっちり抜いてきた。それに頭もワックスで固めて、ダメージ加工の施されたジーンズも履いてきた。
OK、ばっちりだ。今夜はきっと運命的な出会いが待っている。
女を紹介してくれるような友達もいない、社内では若い女の子が来る飲み会に呼んでもらえないし、マッチングアプリではオッサンからしか「いいね」がこない。だから、おいらは最終手段としてナンパをすることにした。
ナンパとは、街を歩いている女子にいきなり声をかけてお友達になってくださいとお願いする日本では非常識で、イタリアでは常識とされている行為のことだ。<カブpedia調べ>
ハイエナのように飢えた目で獲物を探し、街を徘徊する。
ゆっくりと、獲物に警戒心を与えないように足音を殺しながら街の風景に溶け込んで歩く。
すでに夜の気配に包まれている街は人ごみでごった返している。いい年こいてこんなことをするのは恥ずかしいが、背に腹は代えられない。友人だけ幸せでいることを、おいらは許せない。
まだ随分と若かったころ、どうしようもない欲望を抑えきれず駅の改札の前で仁王立ちしていたことを思い出す。あの頃は若かった。そして今は年をとって腹が出ている。だけどやるしかない。
と、正面からカツッカツッとパンプスのヒールとアスファルトが接触する音が鳴り響いてきた。
間違いない、夜のお仕事に向かう前のギャルだ。誰にも声をかけさせないオーラを発しながら、豊満な胸を揺らせて街を闊歩している。その視線は何者をも寄せ付けず、遥か遠くを見つめている。
おいらの闘争心に火が付く。まずは声をかけないとはじまらない。しかし、どうやって声をかけていいのか分からない。もういい大人だというのに、街で女の人に声を掛けるなどという非常識な行為を行っていいのだろうか?
会社の人たちに知れたらいい赤っ恥だ。やめておこう、うん、やっぱりやめて帰ろう。
あきらめようとしたその時だった。
え...?でかくないか??あれ??とっっっても大いぞ!!
「あ、あの、すいません!ちょっといいですか??」
考えるよりも先に体が反応してしまっていた。生物学的な魅力は全ての迷いをあっさりと凌駕してしまったのだ。
「は、お前だれ??」
そういうと、天使はパンプスのヒールの音を響かせながらツカツカと去っていった。
怖かった。しばかれるかと思った。もうやめよう。家に帰ってビールを飲みながらお母さんに電話しよう。
いや、だめだ!!このまま帰ったら友人だけが幸せなままで、おいらは家に帰って証券口座の画面上のXOMという文字に向かって話かけることになる。
「ふふ、やっぱり女なんかより断然米国株だよね」
...。
だめだ!!こんなんじゃ死ぬまで出会いなんか作りだせない。おびえるんじゃない、集中投資するときの気持ちを思い出すんだ。お金を失う恐怖に比べたら、こんなのスリルの内にも入らないじゃないか。
何とか思いなおして、勇気を振り絞って声をかけていく。
「すいません、あの、少しいいですか??」
「帰ります」
次!!
「あの...」
「うるせえ!!」
だめだ、まーーったくだめだ。どうする??やっぱりもうお家に帰ろうか。いや、方法を変えよう。全く別の方法を考えるんだ。仕事だってそうだろ?発想を変えた瞬間に、突然成果が出ることだってある。
おいらは必死で考えた。どうやったら街を歩く若い雌がおいらのようなオッサンを相手にしてくれるのかを必死で考えた。
そしてついに作戦を思いついた。
子羊になるのだ。迷える子羊になり、女性の母性本能をくすぐるのだ。そうすればきっとお話くらいはしてくれるはずだ。
「あの、すいません、この当たりに安い居酒屋ってありますか??僕、この街に来るの初めてで」
出来るだけ頼りなさげに、出来るだけ怯えた瞳で、限りなく本物の子羊を演じるんだ!!群れからはぐれ、絶望した子羊を!!
「あ、そこにチェーン店の○○屋がありますよ」
来た...。
「あの、僕、一人で居酒屋に行くなってお医者さんに止められてるんです!!だけど今日はどうしても飲みたくて...、一瞬でいいんで付き合ってください!!」
「えw、私もう帰るんですけど」
「いや、本当に一瞬でいいんで!!」
「じゃあ、本当にちょっとだけですよ」
おっしゃあ!!どうや、見てみいい!!おいらだってまだまだ捨てたもんじゃないぞ!!
だけどここで興奮なんてしちゃだめだ。あくまでおいらは怯えた子羊だ。
相手の女性は、おいらより10以上年の離れたOLだった。この物語では彼女をA子と呼ぼう。A子は、大きな瞳が印象的な、なかなかの美人さんだった。
どうや、どうや!!どやああああ!!おいらは心の中で、自慢話をしてきた友人に中指を立ててFACKYOUをしていた。
生ビールで乾杯をしてから、おいらは必死で色々な話をし、A子を飽きさせまいと頑張った。A子はとても素敵な女性で、おいらの話にいちいち相槌を打ってくれ、色々とこちらに質問をしてくれた。
「かぶまくらさんって本当に面白いですね~」
「絶対かぶまくらさん彼女いますよね??」
「かぶまくらさん絶対モテますよ」
様々なポジティブワードに、おいらはすっかり舞い上がってしまった。まさか今日こんなに素敵な出会いがあるなんて。何でも恐れずにやってみるもんだ。
それにA子はまだ若いのに、とてもしっかりとした将来像を持ったしっかりとした子だった。それに話を聞いていると投資にも興味があるらしく色々勉強をしているらしい。
ふふ、実はおいらは投資家なのだよ。よっぽどそう言おうかと思ったが、そんな話はもっと親密になってからのお楽しみだ。
そのあとも色々とお話をし、おいらたちは店を出て別れた。もちろんお会計の6,000円はおいらが全て支払った。
そして、おいらたちはLINEを交換して別れた。
電車に揺られながら、おいらは心の中で友人に話しかけていた。サンキュ、お前が自慢話なんてしこなかったら、今日A子と会うことも無かったんだよ。ここからもしも急展開でA子と付き合うことになって結婚まで発展なんてしたら、その時はお前に結婚式のスピーチを頼もうかな。
ついさっきまで嫉妬の対象でしかなかった友人が恋のキューピッドに思えてくるから不思議なものだ。
人生は小説より奇なり。
家で指をくわえているだけでは始まらない。行動すること、それのみが人生を急激な変化へと導いてくれる。きっといつだって、成功は行動した者にだけ訪れるのだ。
心地よい電車の揺れに身を任せ、おいらは静かに目を閉じた。
※次回予定しておりました「A子が私を即ブロック」については、かぶまくら先生が執筆中に体調不良で入院されたため、本誌への掲載を無期限延期とさせていただきます。
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