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【高年収】収入と貯蓄が多いのに彦次郎さんが幸せに暮らせない理由

収入と貯蓄が多いのに彦次郎さんが幸せに暮らせない理由

「このままではヤバい」

仕事を終えて誰もいないワンルームマンションの一室へと帰宅し、冷蔵庫からビールを取り出し、あおるようにして一口目を飲んでから、突然そんな焦りにも似た感情が湧き上がってきた。

しんっ、と静まりかえった薄暗い部屋に、冷蔵庫の低い稼働音だけが響いている。

誰もいない部屋の中に自分一人だけがいることには慣れたはずだが、もしかしたら自分はこのまま独りぼっちで死んでしまうのではないかという、例えようもない恐怖感が体を包み込む。

今のところ、一応仕事はしていてお金には困っていないし、別に多くはないが貯蓄もあるので、実際のところ自分が今食うに困って死ぬという可能性は非常に低い。

しかし、なんとも言えない嫌な感覚が体の中で疼いていて、その感覚がこれ以上広がると本当に自分は一瞬で70歳くらいになり、死の一瞬手前くらいの時点まで時間が短縮されてしまいそうな恐怖を感じる。

ラップトップ型のコンピューターを起動させ、ユーチューブで動画を流すが、中々その嫌な感覚が消えてくれない。

何とか気分を変えようと、動画を流したまま机の上に置いてあった小説を手に取る。

パラパラと小説をめくり、読み進みていくうちに、何となく自分が感じていた幸福感とは間逆に位置する感覚の正体が分かってきた。

「彦次郎さん、そうだったのか」

答えを教えてくれたのは、池波正太郎の傑作小説シリーズである「仕掛人・藤枝梅安」に登場するアサシン、彦次郎さんだった。

彦次郎さんはお金があるのに殺伐とした暮らしをしている

彦次郎は、以前この記事で描いた池波正太郎の作品である仕掛人・藤枝梅安に登場するキャラクターで、梅安と同じく裏の顔は凄腕の暗殺者(仕掛人)だ。

そんな彦次郎だが、浅草の塩入土手というところの小屋のような家に独り暮らしをしていて、その殺伐とした生活が小説の随所に描かれている。

彦次郎の好物は豆腐なのだが、食事は本当に豆腐一辺倒で、夜は毎日のように冷酒をあおって豆腐を食う毎日を送っている。

彦次郎は壮絶な過去を持っており、その過去が原因で仕掛人の道に足を踏み入れてしまったのだが、血生臭い明け暮れを過ごしているせいか、登場した初期の頃はひどく陰鬱とした雰囲気を漂わせている。

大金で殺しを請け負う仕掛人という裏稼業があるため、江戸の庶民が1年は何もせずに生きていけるくらいの金を稼いでいるし、表稼業で房楊枝も作っているため、それなりの貯蓄もあるし、「お金」という点だけから考えると、非常に恵まれた環境にある。

しかし、初期の頃の彦次郎は常に暗い影を感じさせるような人物として描写されている。

つまり、彦次郎は「お金」があるのに幸せではない状態だったのだ。

梅安との友情が深まり彦次郎は少しづつ幸せそうになっていった

そんな彦次郎だが、主人公の藤枝梅安と出会い、親交を深めていくにつれて徐々に暗い影が薄れていく。

「俺は、梅安さんのためなら死ねるな」

物語が進んでいくのと歩調を合わせるように、二人の友情は深まっていき、梅安の家に頻繁に出入りして酒を酌み交わしたり、協力して困難な仕掛の仕事をこなしていくうち、彦次郎の内面は少しづつ明るくなっていく。

途中、梅安の助けを得て因縁の相手を葬ってからは、彦次郎はどちらかというと明る目のキャラクターになっていく(梅安に比べればというレベルだが)。

当初は収入があり貯蓄があっても暗かった彦次郎だが、徐々に幸福感を感じているようなシーンも出てくるようになる。

「一体、なぜ彦次郎は徐々に幸福度が上がっていったのか?」

彦次郎の経済状況は物語の前半と後半でさして変わっていないはずだが、明らかに後半の方が生き生きとしている。

ということは、彦次郎を幸せにしたのはお金ではない何か、ということになる。

自分的には、下記の2つの要素が彦次郎の幸福感を上げたのではないかと推察している。

・仕事の充実感の向上

・人間関係の充実

仕事と人間関係が人生の幸福度を上げていく

ストーリーの初期段階では、梅安が単独で殺しを行う場面が多いが、徐々に彦次郎が梅安の仕掛の助けをする場面が増えてくる。

そういった場面での彦次郎は、親友の梅安のために働いているということもあってか、非常に生き生きとしている。

危険度が高い殺しであればあるほど、彦次郎の働きは重要な役割を果たすようになっていく。

そういった難易度が高い仕掛が終わった後は、血の匂いを抜くために梅安と彦次郎は温泉地に出かけるのだが、そういった場面での彦次郎は仕事後の爽快感に満ち溢れている。

そして、ストーリーの進行とともに、梅安との友情だけではなく、浪人剣客の小杉十五郎との交わりや、暗黒街の顔役である音羽の半衛門との関係性の深まり等を通じて、彦次郎につきまとっていた暗い影は徐々に消えていく。

つまり、彦次郎の幸福度は「仕事と人間関係の充実」によって高まっているのだ。

彦次郎はあくまで小説上の架空のキャラクターだが、仕事と人間関係の充実によって人生の幸福度が上がるという現象は、昔から今に至るまで不変的なことなのではないだろうか。

そう考えると、お金を稼ぐことや増やすことはもちろん大事なのだが、この二つのことをおろそかにしては、人間が幸福度を上げていくのは難しいのかもしれない。

PS...

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