春夏秋冬。
季節の変わり目、強烈な光を放っていた新緑が、くすんだ夕陽色に代わり、そして灰色の季節がやってくる。
移ろいやすい季節の変化があるからこそ、その時どきの美しさを形にした芸術作品や歌が生まれる。
同じように、移ろいやすい人々の感情にコントロールされているからこそ、投資方法にも様々な最適解が生まれては消える。
金融の世界でも常に季節の変化は起こっていて、数年前までは間違いなく「配当金」の季節だった。
配当金を再投資して株数を増やし、いずれ来る株価の上昇を待ち続ければ、キャピタルゲインとインカムゲインを同時に手に入れることが出来る。
資本主義社会のシステムを活用したその極めて論理的な投資方法は、ジェレミー・シーゲル博士が著した「株式投資の未来」により日本中に熱狂的な支持者を生み出していった。
不労所得・配当金・高配当株。
これら三種の神器を知らぬ者は人にあらず。
とまでは言わないものの、配当金の額を増やしてコツコツと大きな資産を築いていくという投資方法は、確かに、ここ日本で熱狂的なムーブメントを発生させていた。
だが、しかし。
今現在配当金や高配当株を好む投資家はかなり少なくなってしまった。
いったい何故?
あれほどまでに熱狂的なムーブメントを巻き起こした配当金再投資最強論は衰退してしまったのだろうか?
ところで、高配当株といえばPERが低めで、なおかつ財務状態やビジネスが安定していて、大きく成長はしないが利益を着実に生み出す企業が多い。
その昔、ニフティ・フィフティというPER50倍を超える成長銘柄がアメリカ株式市場に大きなインパクトを残したことがあったが、最後はお決まりの暴落で人々の脳裏に「高PER=暴落」の方程式を刻み込んだことがあった。
そのため、高PER銘柄は危険だという認識が投資家たちの間に広がった。
・高PER銘柄は暴落しやすい。
しかし、リーマンショックやチャイナショックなどにより、低PER銘柄も普通に暴落することに人々は気が付き始めてきた。
さらに、世界各国が狂気的な金融緩和を繰り返した結果、天文学的な量のマネーが市場に供給され、人気銘柄には巨額のマネーが流れ込むというサイクルが完成した。
分かりやすく言うと、例えばマネーの総量が10だとすると、7が高PERな成長銘柄、2が普通の銘柄、1が低PER銘柄、という風に分配されるだけでその比率は変わらず、暴落時もその比率に基づいて各種の銘柄に株式市場に流入しているマネーが分配されるだけなのだ。
なので、暴落→金融緩和が繰り返されるたびに高PER銘柄はますます株価が上がり、一方で低PER銘柄はあまり株価が上がらないというサイクルが繰り返されるのだ。
その結果、今日ではPER50倍~100倍を超えていても適正なバリュエーションとして投資家たちに評価される銘柄がゴロゴロしている。
そのため、お金が集まりやすく大きなキャピタルゲインを得られる可能性がある高PER銘柄に人気が集中し、お金が集まりにくい低PER銘柄には資金が集まらなくなった。
それが、低PERで配当金をコツコツ支払ってくれる高配当株へ投資をする投資家たちが、一気に株価が大きく伸びていく高PER株へと乗り換えていった原因と言えるだろう。
これが、ここ数年投資家たちの間で起きた変化だ。
さて、配当金再投資の問題点として、受け取る際に税金が差し引かれるので非効率だという意見もある。
投資家に配当金を配らずに企業の中で再投資をすれば効率よく資産を増やしてくれる可能性があるから、というのがその理由だ。
それは企業が配当金にするはずだったお金で資産性のある不動産を買ったり、利益を生み出す新規事業を作れたりする場合は確かにそうだろう。
ただ、それが出来なかったり、そもそもそういったことを求めていない株主を大量に抱えているオールド企業が高配当株だったりするので、理論は正しくとも高配当株である時点でそういった企業内再投資はしない場合が多いだろう。
一方で、毎月支払われる配当金は暴落時に安心できる不労所得であり、実際に資産運用だけで暮らしていく場合は「キャッシュ」として支払われる配当金は心強い存在となるだろう。
なので、非効率な面はあるのだが、すでに引退をしていたり、コツコツと資産を増やす方が心理的に安定して長く投資が出来る、という人にとっては配当金は悪い存在ではないのだ。
今現在市場には驚異的な量のマネーがドーピングされているが、FRBがテーパリング終了の検討を開始して世界中でマネーサプライが減少傾向になれば、今度はまた配当金再投資に注目が集まるかもしれない。
というのも、株式市場のムーブメントというのは移ろいやすい人の感情を映し出している側面もあるからなのだ。
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