私は、陰鬱な海の中でもだえ苦しむ、一匹の犬である。
つがいのおらぬ苦しさに悶え、波の合間で呼吸をする犬である。
つがいになれぬ犬は、ただ波の流れに身を任せ、犬としての命を終えるのみである。
つがいになれぬ私が漂う米国株ブログ村には、同じようにつがいになれぬ悲しい犬が何匹もおるよをで、銀行や株式に預けたお金の額ヲ叫びながら、嗚咽を垂れ流しているのである。
私はお金を持っている、私は凄ひ人間なのだ、私は未来を見ることが出来るのだ、私は不動産投資をしているのだ、私はつみたてているのだ、私は眼鏡をかけた男であり女なのだ、私は餌痔損の会社に投資をしているのだ、私は退職金をぶち込んでいるのだ。
それらの嗚咽は、つまりは、つがいになれぬ犬たちの叫びなのである。
それらの犬の代表が私で、つがいになれぬ苦しさに耐え切れず、老いた体を引きずりながら、つがいになりたい一心で吠えるのである。
私は、小型株に投資をしているのである、ラックがすぐに暴落しているのである、ソフトバンクもすぐに暴落しているのである、ホクリョウも暴落しそうなのである、つがいになれぬのである。
それでも、それでも、私は、つがいを求めて出かけるのである。
その日、私はいわゆる婚活パーティーといふものに出かけていたのだが、不運にも誰ともつがいになることが出来ず、ひどく気落ちしていた。
私が書いたプロフィールに魅力を感じてもらえなかったのだろうか?それとも、自分自身の見た目がもう、つがいを求めるには衰えすぎているのだろうか?
落ち込んだ気分で自分自身が書いたプロフィールカードをじっと見つめる。
・お名前:かぶまくら
・職業:サラリーマン
・年収:2万円
・年齢:アラフォー
・趣味:庭いじり
・カップルになったらしてみたいことは?→ピストン運動
私は、婚活パーティーが開かれていた会場を出ると、会場が入っているホテルのトイレに入って、プロフィールカードをぐちゃぐちゃに破き捨てた。
私は、つがいになりたい、だけど、なれぬ。
その悲しさが胸の奥までこみ上げてきて、心の中が虚無に支配されていく。
これでは、いかぬ。
本日のパーティーでつがいになった者たちが談笑しながらホテルを出ていくのを、悲しげな目でみつめながら、私はこのままではいかぬと思った。
このままでは、このままでは、つがいになれぬ。
心の奥で、激しい感情の揺れがおこり、その揺れが振動となって慟哭のような叫びとなっていく。
そして私は、突き動かされるようにして、つがいを探して夜の街を彷徨った。
「あの、すいません、そのスキニージーンズどこで買ったんですか?」
「失せろ」
私は、これはと思った女どもに必死で声を掛け続けたが、このよふな冷たい言葉を浴び続けるばかりだった。
それでも、私は必死になり、つがいとなる女を探し続けた。
喉はからからとなり、声は出ず、足は歩きすぎでがくがくと震えていたが、私はそれでもつがいとなる女を求めて声を掛け続けた。
「こんにちわ、この辺に銀だこってあります?」
「え、銀だこですか?」
そうして頑張っていると、つひに一人の女が立ち止まり、私の話に耳を傾けてくれた。
「たまに銀だこ食べたくなるから探しててん、お姉さんもう飯食った?」
「食べてないですけど...あの、かぶまくらさんですよね?」
突然、名乗ってもいないのに、女が私の名前を口にした。
「え?」
「前、うちの会社に来てましたよね」
よく見ると、その女は、以前私が仕事で出入りしたことがある会社で働いていた女だった。
しかし、ずいぶん前のことだったので、私はすぐにはその女だとわからなかったのだ。
「こんなところで、何してるんですか?」
とてもではないが、つがいを探しておりましたとは、いへるはずもない。
「ポケモンGOしてた」
私がごまかすためにそふ答えると、女は笑いながらこう言った。
「ごはん食べる人探してたんでしょ?少しなら、付き合ってもいいですよ」
よく見ると、女はまだ若く、タイトなジーンズにねじ込んだその体からは、いひにほいがしていた。
「いつもあんなことしてるんですか?」
がやがやと騒々しい居酒屋に入り、席に座ってビールを飲みはじめたとき、女がそういった。
「いや、全然してないよ。ただ、今日はつがいになれ...家で西野カナ聞いてたら寂しくて震えが止まらんくなって、それで気がついたらタイプの人に声かけてた」
「会社の人にチクりますよ」
「いや、誤解やから」
「嘘ですよ」
女はジョッキに入っていたビールを飲み、子供をあやすような目で私を見つめていた。
女の唇の周りに、ビールの泡がこびりついているのを見て、もう一人の私がゆっくりと起き上がるのを感じた。
「婚活パーティーに行っててん」
私が正直にそう言ひ、つがいになれなかったこと、それがとても悲しかったこと、将来的にもつがいになれぬ恐怖を背負って生きていることを話した。
「ふーん、でも、結婚っていいことばかりじゃないですよ」
「結婚してるの?」
「前はね」
よくよく聞いてみると、女は以前は結婚をしていたが、数年前に離婚したらしい。
「なんで離婚したの?」
「まあ、旦那の浮気とかいろいろあって、最終的には離婚を選ばざるをえなくなっちゃんたんですよ」
女は、ずいぶんと冷めた感じでそういうと、離婚に至るまでの経緯を色々と私に話してくれた。
確かに、統計上はつがいになったからといって幸せになれるわけではなく、2/3のつがいはその後関係が破綻してしまうらしい。
「正直、もう男の人に疲れちゃったって感じですね」
「それは、しんどいよな...」
私は、彼女がひどく苦しい時期を過ごしていたことを聞かされ、安易につがいを求めて彷徨っていた自分がひどく滑稽な存在に感じられた。
この人の苦しみに比べたら、私のつがいになれぬ苦しみなど大したことはない。
「ところでさ、かぶまくらさん...」
「?」
「胸、見すぎだよ」
私は、つがいになる苦しさを教えてくれた女に、心の奥底から感謝していた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ」
「駅まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
私は、今後その女がよりよい人生を送ってくれることを心の底から祈っていた。
苦しみにもだえ苦しんだ時期が、少しでも柔らかな光となり、この人を包み込みますように。
私は、心の中でそっと、そう祈った。
「かぶまくらさんも、いい人見つかるといいですね」
「そうだね...」
彼女の足音と、私の足音が重なり、秋の澄んだ空気の中で音響によって広がる音符のようになって遠ざかっていく。
私は、今日という素晴らしい日を過ごせた喜びを心の中で噛みしめていた。
ありがとふ、ほんとうに、ありがとふ。
今日は、つがいになれぬ悲しさが、少し、やわらいだ。
「もう帰るんですか?」
ーつがいー
<意味>かぶまくら国語辞典より
・二つの物質が一組となっているもの
・動物の雄と雌などが一組になっているもの
※この物語はフィクションです。
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