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深田恭子が結婚してしまうという恐怖で夜も眠れなくなりご飯も食べれないです

「うぎいああああああああああ!!」

昼休みに蕎麦屋で蕎麦を注文して待っていた時のことだった。

店に置いてあった週刊誌の見だしを見て、おいらは悲鳴をあげてしまった。

ー深田恭子が結婚秒読みー

そんな感じのタイトルが踊っていたので、急いで胸ポケットからボールペンを取り出し、その部分をグチャグチャに潰して見えなくしてしまった。

「お客さん、何するんですか!?」

「こんなもん客に見せるんじゃねえ!!」

店主に注意されたので、おいらはそうやり返した。

「おう、そんなこと言うんならけえってくれ!!てめえなんかに食わす蕎麦はねえ!!」

すると、0.5秒で血管がブチ切れることで有名な店主が一瞬でアドレナリン全開となり、おいらに殴りかかってきた。

スーパーマーケットで30円で売っている蕎麦を、平気で手打蕎麦と称して提供する店の分際で何を偉そうに...。

いつもクソまずい蕎麦を食わされている怒りもあり、おいらも負けずに応戦した。

数十分後、ボロ雑巾のようになったおいらは、腐臭の漂うゴミ置き場から会社に電話をかけていた。

「あ、すいません、かぶまくらです。今日はこのまま直帰させていただきます」

体中に痛みが走り、体が自由に動かない。

店主がアフリカ出身の元プロボクサーだということをすっかり忘れていた。

容赦なくフルボッコにされて、売れ残りの蕎麦が散乱しているゴミ置き場に投げ捨てられたおいらは、必死で彼女の名前を呼んでいた。

「きょうこ...いなかないで...きょ...」

そこまで言ったところで、おいらの意識は途絶えてしまった。

おいらの愛する深田恭子が結婚秒読み段階に入ったという噂が最近絶えない。

相手は、お決まりのコースで企業家の金持ちだそうだ。

「へ、何が金持ちや、おいらかって金は持っとる」

そう強がってはみたが、相手は年商数百億円も稼いでいる社長らしく、おいらの経済力などミジンコレベルに感じられる相手だそうだ。

「あ、IBMの株主やぞわしは!!」

そんな感じで去勢を張ってみても、自分が惨めに感じられるだけだ。

そのため、酒で恭子を失う悲しさを紛らわすしかない日が続いていた。それはまるで、細い針でずっと全身を嬲られているような感覚で、絶望的に逃れようのない毎日だった。

「きょう...こ...きょ...」

意識の底にあったのは、いつも恭子の優しい笑顔で、その笑顔が見たくていつも酩酊して意識を失うまで酒を飲み続ける自分がいた。

深い意識の底にたどり着いたときにだけ、彼女の優しい笑顔が見られるからだ。

ーねえ、本当は誰も...ねえ、愛せないと言われてー

僕の意識の底ではいつもルナシーの「I for you」が流れていて、「神様もう少しだけ」に出演していた頃の深田恭子の笑顔がサブリミナルのように投影されていた。

「そんな生活を毎日続けていたら、体壊しちまうぞ」

「はは、そうですよね...」

そんなおいらを見かねた優しい先輩のCさんが、久しぶりに飯に誘ってくれた。Cさんは本当に頼りがいがあって仕事もできる憧れの先輩だ。

「飲めよ...」

「誰にでも思い通りにいかないことはあるさ。恭子には恭子の人生がある。だから、わかってやれよ。おまえ、恭子のこと好きなんだろ?」

「はい...」

Cさんの言う通りだ。彼女には彼女の、僕には僕の人生がある。だから、僕が彼女の人生に対してとやかく言う資格なんてこれっぽっちもないんだ。

そんなこと...最初っから分かってたんだ...。

「食えよ、うめえぞ」

久しぶりに美味しそうに焼き鳥を頬張るCさんを見て、段々と涙腺が緩んできた。

Cさんは、ご自身のお仕事で大変ご苦労をされた結果こんな姿になってしまったのに、それでも後輩のおいらを心配してくれてこうして飯に誘ってくれている。

それに比べて、自分はなんて小さい男なんだ...。

「Cさん、あの...」

「いいから食え、そしてもっと飲めよ」

優しいCさんの笑顔を見ていると、段々と凝り固まっていた心が和らいできて、ずいぶんと気分が楽になってきた。

「もう一軒いくか...」

結局、Cさんに誘われてもう一軒飲みにいくことになった。

「そうだ、お前が大好きなきょうこがいる店に行こうか」

「はは、いいですね...スナックとかですか?」

「ああ、連れて行ってやるよ。冗談抜きで本当に深田恭子に似ている娘がいるよ」

まさか...。

いくら何でも深田恭子に似ているは言い過ぎだろう。

「いやいや、本当に似てるよ。少なくとも、俺はそう思う。だから、本当はお前のことを連れていきたくはないんだよ。本気になっちまったら困るだろ?」

そこまで言われると、「もしかして...」という予感が湧いてきて、段々と胸が高鳴ってきた。

確かに、夜の店にはたまに驚くほど容姿が整っている女性がいるので、深田恭子似がいても不思議ではない。

「俺を信じろよ」

そう言って笑ったCさんの目の奥に強い光が宿っているのを、おいらは見逃さなかった。

ーCさんは、僕をどこかへ導こうとしているー

おいらはそう確信した。

ー僕は、Cさんに導かれて大切な何かを手に入れるのかもしれないー

きっと、今日は奇跡のような出来事が起こる。

「さあ、行くぞ」

店の前についた。「スナック・きょうこ」と書かれた看板が目に付く、どこにでもある店のように見えた。

だけど、このドアの向こうには、眩い光に彩られた何かが僕を待っている。

そんな確信めいた予感に、胸が震えた。

「お前がずっと探していたキョウコとのご対面だ」

Cさんがゆっくりとドアを開ける。

「ママ、久しぶり」

僕はそのあとをついていく。

さあ、奇跡の始まりだ。

ここから、何かが変わっていく違いない。

ー恭子、幸せになれよー

僕は、心の中で恭子にそう呼びかけた。

ー俺も幸せになるからー

そんな言葉を添えて。

「あー、お久しぶりです~」

甘い香水の匂い。

そして、少し高い声。

間違いない。

彼女は、彼女こそは...。

ーCさんの視力が0.001だということを忘れていたー

株で夢をかなえよう

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